最も有力な仮説:小惑星衝突説
約6,600万年前、直径10km前後の小惑星が現在のメキシコ・ユカタン半島に衝突したというのが、恐竜絶滅を説明する最も広く認められている仮説です。1980年、ルイス・アルバレスとウォルター・アルバレスの親子は、世界各地の地層から、地球上では極めて珍しいものの小惑星には多く含まれる元素であるイリジウムが濃く堆積した薄い層を発見しました。その後ユカタン半島の地下で実際に巨大な衝突クレーター(チクシュルーブ・クレーター)が確認され、小惑星の衝突が白亜紀末の大量絶滅の決定的な引き金だったという仮説は、今日古生物学界で広く受け入れられる説明として定着しています。
衝突直後、地球で何が起きたのか
衝突で巻き上げられた塵と硫酸塩の粒子が大気を覆い、太陽光を遮って気温が急激に下がり、光合成が止まったことで食物連鎖全体が崩壊したと推定されています。巨大な衝突は瞬間的な火災や地震、津波だけでなく、大気中へ膨大な量の塵やすす、硫酸塩エアロゾルを噴き出したと考えられています。これらの粒子が長期間太陽光を遮ったことでいわゆる「衝突の冬」が訪れ、植物の光合成が大きく減少したことで、草食動物からその上位の捕食者へと続く食物連鎖が連鎖的に崩壊した、というのが現在有力視されているシナリオです。
もう一つの要因として挙げられるデカン高原の火山活動
ほぼ同じ時期、インド地域ではデカン・トラップと呼ばれる大規模な溶岩噴出があり、その際に放出された二酸化炭素と二酸化硫黄がすでに気候を不安定にしていた可能性が併せて研究されています。小惑星衝突とは別に、現在のインド地域では数十万年にわたり膨大な量の溶岩が噴出したデカン・トラップの火山活動がありました。この火山活動が放出した温室効果ガスと硫酸塩が、衝突以前からすでに地球の気候と生態系にストレスを与えていた可能性が指摘されており、正確にどの程度の比重を占めていたのかは今なお活発に研究されているテーマです。ただし大多数の研究者は小惑星衝突を大量絶滅を引き起こした決定的な事件と見なし、火山活動はそれを補助した、あるいはそれ以前に生態系を弱めていた要因として扱うことが多くなっています。
K-Pg境界層が世界共通の証拠として使われる理由
白亜紀と古第三紀の間の地層境界(K-Pg境界)で見つかるイリジウム濃集層は、世界のどこでも同じ時点を示す地球規模の標識として活用されています。この薄い粘土層は南極からヨーロッパ、アメリカ大陸まで世界各大陸の地層で共通して確認されており、小惑星衝突が特定の地域だけでなく地球全体に影響を及ぼした出来事であったことを裏付ける中心的な証拠として扱われています。この境界層を境に、その下の地層からはさまざまな恐竜の化石が見つかりますが、すぐ上の地層では忽然と姿を消す様子がはっきりと観察されます。
すべての恐竜が消えたわけではない
私たちがよく思い浮かべるティラノサウルスのような非鳥類型恐竜は絶滅しましたが、恐竜の一系統である獣脚類から進化した鳥は今日まで生き延び、事実上「生きている恐竜」と見なされています。古生物学では鳥類を恐竜の子孫ではなく、恐竜という分類群そのものに属する一系統として扱います。つまり白亜紀末の大量絶滅を生き延びた一部の鳥の系統が今日まで続いているため、厳密に言えば恐竜という大きな仲間全体が消えたのではなく、非鳥類型恐竜だけが絶滅したことになります。これはこの時期の絶滅を語るときによく言及される重要な区別です。
なぜ一部の生物は生き残ったのか
体が小さく雑食性だったり、地中や水中に隠れることができたりした動物が、急激な環境変化の中で相対的に生存に有利だったという仮説があります。餌が急激に減少する環境では、体が大きく多くの餌を必要とする動物ほど不利だったと推定されます。反対に体が小さく少ない餌でも耐えられたり、種子や死んだ有機物のようにさまざまな餌を食べられる雑食性動物、穴を掘ったり水中に身を隠したりできた動物は、相対的に生き残る確率が高かったという説明が広く受け入れられています。哺乳類や一部の鳥類、ワニ、カメなどが、こうした特徴を持つ生存者グループとしてよく挙げられます。
今なお研究が続く問い
絶滅が衝突直後に一瞬で起こったのか、それとも火山活動と重なりながら数万年かけて徐々に進行したのかなどは、まだ完全には決着していない活発な研究テーマです。小惑星衝突が大量絶滅の核心的な引き金だったという点には広い合意がありますが、衝突と火山活動が正確にどう相互作用したのか、絶滅が進行した正確な時間スケール、地域ごとに生態系が崩壊する速度の違いなどは、地質学・古生物学の研究で新たな地層資料と精密な年代測定を通じて今も検証され続けている部分です。